受賞作をシナリオ分析

第2回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞
受賞作:『アシ!』 (400字詰め原稿用紙59枚)
受賞者:古沢良太

月刊ドラマ 2002年7月号
月刊ドラマ 2002年7月号掲載)

ログラインは、デビュー前のマンガ家が、初掲載の原稿を4日以内に仕上げるため、アシスタントを雇うのだが、そのアシスタントが有名なトラブルメーカーで、何度もトラブルを起こして原稿をダメにする。はたして彼は無事に原稿を仕上げ、デビューすることができるのかというコメディ。

↓↓↓↓↓(『アシ!』のシナリオ一部)

月刊ドラマ

とにかく読みやすい脚本でした。
アマチュアの脚本は、読みにくいものがほとんどです。
読みにくい理由はいくつかあります。
代表的な例は、<主人公が何をしたいのか?>という目的が明確に示されないまま話が展開すること。
セリフが長いこと。あるいは、説明ゼリフが多い。ゆえに、テンポが悪い。
無駄なト書きなどです。

細かいことをあげればキリがありませんが、とりあえず上記をクリアしていれば、たいがいストレスなく読めるものです。
特に、『主人公が何をしたい』がわからないと読み手は困ります。
ドラマを見て、主人公に感情移入するときというのは、視聴者がその人に興味を抱いたときです。
なぜ興味を抱いたのかというと、それはその人を知る(認知する)ことができたからです。この人は、こういうことがしたいんだ、と理解でき、その人の話を聞こうと思えるわけです。

『アシ!』の主人公は、25歳、デビュー目前のマンガ家、佐野慎二です。その彼が念願叶い、初掲載できるネームを仕上げた。あとは4日以内に原稿を仕上げれば、晴れてデビューです。彼の目的は明確ですね。4日以内に原稿を上げ、デビューする、ただそれだけです。そのゴールに向かう話なのだ。
と、読み手である私は、主人公を認知しました。彼の境遇にも違和感なく理解できます。脚本家でいえば、プロットが通り、締め切りまでに脚本を書くというものと同じです。原稿を落とすわけにはいかない。

そこで、彼はアシスタントを雇うのだが、どうもそのアシさんは癖がある。(のちに、たびたび問題行動を起こす有名なトラブルメーカーだとわかっていきます)物語全体に不穏な空気が漂う。
そして、せっかく一日かけて描き上げた原稿をアシの粗相で燃やしちゃった。原稿がおしゃかになってしまった。(ターニングポイント)
さあ、大変……。アシスタントを雇い、早く仕上げるつもりが、逆の展開へ……。締め切りまで、あと3日……。主人公のゴールの行方の雲行きが怪しくなりました。
彼は無事に原稿を締め切りまでに仕上げることができるのでしょうか!?
主人公・佐野の将来を見届けたいという気にこちらはなります。

つまり、このドラマは、はたして主人公が無事に原稿を仕上げ、マンガ掲載され、デビューすることができるのか。というセントラル・クエスチョンで話を引っ張り、それをどうにかして解決していく話なのだと読み進めることができます。

どうですか? とてもわかりやすいでしょう!
読み手は、安心して読めるんです。
ただ、これってかなり王道のコメディのつくりです。下手だとスベるというリスクが当然ある。しかし、古沢良太さんはアマチュアのときから自分はコメディ作家という自信があったのでしょう。構成、セリフ、キャラクターがばつぐんにうまかった。選考委員の座談会でも、即戦力と太鼓判を押しています。そして彼はそのようになっていった。

王道やベタをバカにするアマチュアは多いですが、そもそも王道やベタを理解していない人が多い気がします。
笑いは、緊張があり、緩和があって笑いになります。フリがあって、オチがある。因果関係をしっかり書けることが大事です。意外と書けていない人が多い。作家だけが楽しんでいる場合がそれです。

原稿を絶対に時間内に仕上げなければいけないという緊張(カセ)があり、原稿が燃える、原稿を川に捨てられる、ヤクザに原稿をシッチャカメッチャカされるという脱力があって、こちらは笑う。
主人公にとったら大問題ですけどね。それが笑いになっちゃう。
しかも王道の笑いで重要なのが、音を消しても笑えるということです。原稿が燃えカスに、原稿がずぶ濡れに、原稿が破かれた、この単純さがわかりやすくていいです。原稿が大切であればあるほど緊張が高まり、それが理不尽なことで失うと笑いに変わる。
タイムリミットというのは、過去の受賞作でも実に多い。城戸賞後、日本アカデミー脚本賞も獲った『超高速!参勤交代』もそうです。タイムリミットは、観客に認知させやすいんです。その時間を守らなければいけないという共通認識(主人公と観客)が、観客の感情移入をよりスムーズにし、応援しやすくなる。ちょっと麻薬みたいな手ではありますが、その問題解決の発想が斬新で、優れていれば、それはアカデミー脚本賞を獲るまでになる。

また、その展開を支えるキャラクターづくりがうまい!
なんといっても、トラブルメーカーのアシこと、轟の存在です。
こいつ、ほんとダメな奴です。けど、なんか憎めない。ここが大事なんです。嫌な奴なのに、憎めないキャラって一番おいしいんですよ。で、これをつくることができれば、もう脚本はがぜん書きやすくなる。ゆえに、読みやすくなります。

じゃあ、なんでこのダメアシを雇い続けなければいけないのかという問題が浮上します。
ここが計算づくされている。
古沢脚本でうまいと思うのは、主人公の弱点と、敵となる相手の長所が裏表になっていることです。
主人公の佐野は、描くのが遅いんです。で、轟は天才的に早いしうまい。
ここを手放せない。だって時間がないから。どうしたって彼の協力が佐野にとって不可欠になる。
なんだけれど、轟には欠点がある。酒癖が悪いこと。彼は、適当な理由をつけて酒を飲んではトラブルを起こす。ここの因果関係が実にうまく展開していた。

そして、古沢さんの強みといえば、圧倒的なセリフ力です。
以前、彼と仕事しているプロデューサーと仕事する機会があり、彼について聞いたところ、
「彼のすごさは、うん?この展開はどうなんだろうって思っても、その後のセリフで全部ひっくり返される。そのくらいセリフの力がすごい」と言ってました。
その才能の片鱗は受賞作からひしひしと感じます。ぜひ、月刊ドラマを手に入れて読んで欲しい。
それと、とにかくテンポがいい。ダラダラとした会話が一切ない。短くポンポン会話を交わす。それでいて、キャラがよく出ている。こちらは読んでて、小気味よく感じ、笑っちゃう。

ストーリーの中盤(ミッドポイントあたり)から、轟が飲み屋でナンパして佐野の家に連れてきたモモコというキャラがいるんですが、この彼女の描き方も絶妙でした。
いよいよ締め切りまであと27時間となった。なんやかんやあり、まだ一枚も書けてない……。
佐野にしたら、モモコなんて女は何の関係もない。勝手に家に上がり込み、しかも轟の代わりにアシスタントにしようとしたガールフレンドには誤解されて振られ、腹立たしさと迷惑しかない。
けれど、彼は目的のため、猫の手も借りたい状態。轟にもう酒を飲まないと約束させ、原稿を仕上げるため、モモコにも手伝わせる。彼らは締め切りまでラストスパートをかける。
なのに、その彼女が、なぜか勝手にウナギイヌを描いちゃう。あ然となる(脱力する)佐野とモモコの会話がおもしろい。

佐野「それは何ですか?」
モモコ「ウナギイヌ」
佐野「……」
モモコ「知らない? ウナギイヌ」
佐野「イヤ知ってますけど、どうしてウナギイヌを描いてるんですか」
モモコ「得意だから」

シンプルな会話ですが、笑えるし、モモコのキャラクターがよく出てる。悪気のないド天然が加わってしまった。こんな切羽詰まった大変なときに!けれど轟同様、憎めないキャラなんです。
佐野にしたらどちらも自分の目的の邪魔ばかりする相手で、憎むべき人たちですが、なんでそんなことになっちゃうの?と相手が思いもよらないことをして、突き抜けてるので、こちらは笑っちゃいますよね。
しかも、それがラストシーンで効いてくるあたりがうまい!もちろんセリフで!ここが受賞の決定打でしょうね。

とはいえ、ただ笑わせるために彼らを登場させたわけではありません。
主人公は、きちんと彼らのおかげで成長していきます。
佐野はとても良いヤツなんです。真面目で、努力家。ただ、臆病さが垣間見れる。それは彼の筆の遅さが物語っているし(慎重さ)、明らかに向こうも好意があるのにガールフレンドに対してグズグズしてる(勇気がない)。真面目ゆえに、締め切りを守れなかったらダメだと思い込み、一分でも過ぎたら終わりだと思って諦めてしまう(夢を叶えきるという意志の強さの欠如)。
そんな彼には、型破りの轟が必要だったんです。それがクライマックスにつながり、彼の成長と変化になった。

どうですか。ここまで書けたら、当然受賞レベルになる感じがしたでしょう!
受賞や最終選考レベルの作品を書けない人は、そもそもそれらがどういう作品なのかイメージ出来ていない場合が多々あります。イメージすることは大事です。
おもしろい作品は、つくりこまれた良いキャラクターで、因果関係がきちんと整理され、セリフとアクションで展開しています。
それを理解するには、アマチュアは良作を模写するしかありません。自分ですぐ書けるわけではないので、疑似体験をし、自分の中で覚えさせるんです。精神論みたいな話ですが、これは重要です。プラス、受賞スピーチまで考えちゃうくらい勘違いしてもいいです。
受験勉強と同じです。赤本ばっかりやってたら傾向と対策が身についたような感覚が大事なような気がします。
ですから、シナリオコンクールで受賞したければ、せめて過去の大賞作品くらい模写して、自分の中でこういうのが受賞作なんだ。こういうレベルのものを書かないと受賞なんてないんだと体現することが大切。簡単なことなので、どうぞお試しあれ!

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