サスペンス

フライト ネタバレあり感想&映画脚本分析

フライト

フライト ネタバレあり感想&映画脚本分析

作品紹介

フライト
上映時間 139分

監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ジョン・ゲイティンズ

ウィップ・ウィトカー (デンゼル・ワシントン)機長
ニコール (ケリー・ライリー)薬物依存症の女性
ヒュー・ラング (ドン・チードル)敏腕弁護士
チャーリー (ブルース・グリーンウッド)パイロット組合の代表
トリーナ (ナディーン・ベラスケス)客室乗務員でウィップの恋人

ログラインは、ウィップ・ウィトカー機長の神業的な操縦のおかげで制御不能になった飛行機は不時着ができ、彼は英雄になるのだが、彼の体内からアルコールと薬物が検知され、一転、犯罪者になってしまうのでそれから逃れようとする話。

とにかく脚本が素晴らしい。この年のアカデミー脚本賞にノミネートされ、惜しくも逃したが、受賞作よりも優れていると思った作品です。
監督も「この脚本の素晴らしいところは登場人物が次に何をするかわからないことだ。物語の結末や主人公の行く末を知りたくなるんだよ。読み出すと止まらなかった」と語っている。
いったいどんなところが素晴らしかったのか分析していきます。

フライト

<鑑賞済みの方を対象にネタバレありで語っていきますので、見ていない方はご覧になってからがいいかと思います>

どんな映画なの?を裏切る作品!

この映画は、フライトパニックの映画ではありません。アルコール依存症のお話です。パニックムービーだと思って見始めると、開始30分で終わりますのでお気をつけください。
公開当初、観に行ったとき、なんの予備知識もなかったので、おいおいこの映画どうなっちゃうの?とまったく予想がつきませんでした。
1幕でド迫力のフライトパニックが起きますが、それは2幕から始まるドラマの、この映画のテーマ(アル中)を深めるために用意した設定だったと気づくと、おいおいすごい脚本だなと驚いたわけです。

ウィップ・ウィトカーは、アルコール依存症で薬物中毒です。そんな人が乗客百人以上も乗せる飛行機の操縦士をしている。その一方で彼は凄腕のパイロットでもある。彼じゃなきゃ、あのトラブルの中、墜落を免れ、不時着することはできなかった。その事実は認めつつも、そもそも泥酔でハイになってる人が運転したら、そりゃ犯罪だよね、という話がだんだん理解してくれると、観客は当然、犯罪者である主人公が罪から逃れることに共感できません。
だからまず、ウィップが事故から助かり家に戻ってすることは、断酒なんです。しかしすぐに、刑務所に行くかもしれないという不安で、再びアルコールを浴びるほど飲んでしまう。チャーリーやヒュー弁護士、ニコールの協力や信頼を裏切ってまで飲んでしまう。あんな大事故の後なのに、飲酒運転を平気でする。飲んで公聴会に出たら一発で刑務所だというのも理解しているのに飲むのをやめられない。
それくらいアルコール依存症というのは怖い。どんなに追い詰められた状況であっても、アルコールを飲むことをやめられない。その怖さを最大限に表現するには、1幕のあのフライト事故が必要だった。アル中ってのは、たとえ家族に見放されようが、飛行機が落ちて助かろうが、酒を飲むのをやめられない。その恐ろしさを観客に知らせたかった。そして、ついに公聴会前日、運命のいたずらか、神様の試練を乗り越えられず、ウィップは冷蔵庫の酒を全部飲み干してしまう。

ハードルの上げ方が絶妙!

通常、主人公にとって有利な偶然は、ドラマ性の魅力を落とすので避けるのが基本です。主人公に不利な偶然はいくらでもぶつけていいですが、有利な偶然はリアリティーの欠如、あるいは作者都合だと思われるので書きません。
しかしこの映画は、主人公にとって有利なことが続きます。まずはウィップと同じでアル中のトリーナの事故死、クソ真面目な副操縦士がウィップの飲酒を話さない、毒物検査キットの期限切れ、航空会社を守るためにウィップがどんなにクズでも必死に助けなければならない。
彼は努力しないでピンチを乗り切ってしまう。だが、それこそが実は彼を苦しめていることだと誰も気づかない。そこがこの映画の面白さです。
2幕の終わり、ウィップは冷蔵庫の酒を全部飲み干してしまう。さて、45分後の公聴会はどうなっちゃうの? 彼は、やっぱり刑務所にいってしまうのか?
という絶体絶命の状況になる。ハードルが上がりきってる状態。45分しかないというタイムリミットまで設けた。
それにも関わらず、また抜け道がある。それが薬物だ。二日酔いからシャキっと目覚めるために薬物を使う。彼は、無事に公聴会に出る。全て、他人のお膳立てで彼はピンチを乗り切ってしまうのか……
しかしそれらは、彼がクライマックスの決断をするための前フリだったとわかると、なるほど!と感心してしまう。アル中というキャラを逆手にとった構成だと理解できると、この脚本のスゴさがわかる。
つまり、主人公が本当に望んでいるものが何か?というのがわかったとき、今まで有利に思えた偶然は、やはり主人公にとって不利なものだったと気づかされるわけです。

どう着地させるか、それは観客も主人公も望んでいることか?

この映画は、墜落から人を救ったパイロットが、刑務所に行くのを免れるというのがゴールではありません。主人公のウィップは、当然それが欲しい目的として物語は進みます。
しかし、本当に欲しい目的は何なのか? これがどの映画でも大事です。欲しいものを求めるうちに、本当に欲しいものと出会うのがドラマです。
刑務所に行かずに済んで、またお酒を飲み、薬物をやって、家族や恋人、友人に嘘をついて他人を裏切る人生を続けることが、主人公の望みではありません。
お酒を断ち、薬物をやめ、家族や恋人、友人に嘘をつかなくていい人生が、本当は欲しいわけです。
けれど、彼を救おうとすればするほど、彼はアルコール依存症から抜けられません。同じ間違いを何度も犯してしまう。周りが彼を救おうとすれば、彼は本当に欲しいものを手に入れることができない。
では、クライマックスの決断として、彼に何をさせるか。
嘘をつかないで、罪を認めることです。この着地しかない。その着地をさせるためのエピソードがうまかった。自分のために嘘をついてしまうのか・・・と主人公は揺れ、観客も揺さぶられた。
3幕は新しい日常に戻らなくてはいけない。彼が望む新しい日常は、お酒を断ち、薬物をやめ、家族や恋人、友人に嘘をつかなくていい日々です。彼が罪を認める=アルコール依存症の治療の開始。刑務所に入り、彼の輝かしい人生は一見終わってしまうが、彼にとっては人生で初めて自由を感じられる日々を送ることになる。ようやく酒を飲むために嘘をつくことをやめ、本当に欲しかったものを手に入れることができたのです。
ラスト、息子が父に「Who are you?」と尋ねる。彼は酒が抜けた父の記憶がおそらくないのだろう。今目の前にいる、温和な父が信じられない。別人のように生まれ変わった。これが本来の父の姿。断酒を続ける父へ、息子なりのおめでとうが、「Who are you?」という言葉だったのではないでしょうか。
墜落しそうな展開が何度もありながら、見事着地させた素晴らしい映画でした。