フォーン・ブース ネタバレあり感想&映画脚本分析

フォーン・ブース
上映時間 81分

監督 ジョエル・シュマッカー
脚本 ラリー・コーエン

スチュワート・シェパード(スチュ) (コリン・ファレル)
エド・レイミー警部 (フォレスト・ウィテカー)
ケリー・シェパード (ラダ・ミッチェル)
パメラ・マクファーデン(パム) (ケイティ・ホームズ)

ログラインは、他人の弱みを巧みに操って仕事をし、女も落とす宣伝マンのスチュが、電話ボックスにかかってきた電話に出たところ、電話を切ったら殺すと脅され、次々と指示に従わなければいけない話。

正直、まだこれを観ていない人はうらやましい。フォーン・ブースを観たとき衝撃的だった。
(パクりたい!)という誘惑に駆られるほど嫉妬した作品。
当然、形を変えて誰かがが書くことは予想できた。国内の某人気刑事ドラマで使われていたときは、元ネタを超えられないなとは思ったが、一定のレベルの作品になっていたのを見て、これはひとつの型として使えるんだなと思った記憶があります。
脚本家志望であれば絶対観ておいたほうがいい、ソリッド・シチュエーション・スリラーとして傑作の作品だと思います。

フォーン・ブース

<鑑賞済みの方を対象にネタバレありで語っていきますので、見ていない方はご覧になってからがいいかと思います>

ソリッドシチュエーションスリラーは難しいが、傑作が生まれやすい!

ソリッドシチュエーションスリラーとは、限られた状況下にある人間の極限の状態をスリリングに描いた作品のこと。(映画『CUBE』や『SAW』など)
巻き込まれ型パニックともいえる。巻き込まれ型がいいのは、とにかく理不尽に物語をスタートさせることができる。この映画も電話ボックスに入った瞬間にトップスピードでドラマが始まる。

ソリッドシチュエーションスリラーは、限られた状況なのでほとんど画が変わりません。そこがデメリットであり、最大のメリットでもある映画。
傑作になる要素は、ズバリ、脚本です。
脚本の中でもキャラクターが一番重要になってくる。
フォーン・ブースでは、スチュvs電話の主。
スチュの切迫感ある表情。電話の主の冷酷無比な声。これで70分以上持たせます。すごいことです。

画が大きく変わらないので飽きが生まれる。そこを飽きさせない工夫ができるのは脚本しかない。
役者がどんなにうまくてもそこがつまらなければ傑作にはなりにくい。
重要なのは、主人公スチュの葛藤。彼に次々と電話の主が選択を迫ることで追い詰められていく。そのハードルの上げ方がうまい。
それでいて事態は常に単純で深刻だ。
「電話を切ったら、殺す」
ただそれだけで、彼の行動は縛られ、苦しめられていく。

低予算は脚本の見せどころ

シチュエーションを限ることでなにがメリットかといえば、低予算でつくれることです。
また、ストーリーに集中ができる。
ストーリーに集中ができるとは、役者もそんなに出せないので、その主人公のキャラクターを掘る作業がおこなわれる。もちろん観客もそこに注目が集まる。

まずスチュのキャラクターを考察すると、実にわかりやすくよく出来ている。
スチュは、NYで宣伝マンをしている。正直馴染みのない職業ではある。その説明が開始4分あたりから9分の約5分で説明される。スチュの性格、行動原理、人間性、何を求めているのかがはっきり示される。ここを簡単に説明できたのがすばらしい。
スチュは、アダムという宣伝マン見習いの学生を金もやらずにこき使いながら、ときにストレスのはけ口にも使い、クライアントの売り込みを電話一本でどんどんやっていく。そのやり方は、正攻法ではない。小狡いやり方で、相手の弱点をつき、惑わせ、心理を操り、巧みな駆け引きで仕事をとっていく。5分の間で彼は3つの仕事を取りつけた。一見やり手の男に見える。
そして彼は、電話ボックスに入り、美人な奥さんがいるにもかかわらず、女優志望の若い美女(パム)を売り込んでやるという甘い言葉で誘い出し、彼女との浮気を企む。インチキな商売をして、仕事の立場を利用して美女を抱くことしか頭にない。また、自分に無益な人間を見下し傲慢な態度をとり、トラブルになりそうになると金で解決する。サイテーな奴だ。

フォーン・ブース

観客も思い当たるフシが・・・が大事!

そのサイテー男を懲らしめるのが、電話の主。彼は一切出てこない。最後に出てくるが。出さないことでストーリーに引っ張りが生まれる。SAWやCUBEも手法は同じ。
引っ張りのためには、電話の主が怖くなくてはいけない。
サスペンスは、観客がもし自分がその立場になったらという恐怖心を与えることに成功しないと楽しんで怖がって見ることが出来ない。

電話の主はどんな奴なのか。
彼は電話ボックスを盗聴し、ターゲットのスチュを徹底的に調べあげ、それを脅しにして彼を追い詰めていく。
目的は、罪を悔い改めよ、というもの。悔い改めれば、助けてやるというだけ。
まさに、冷酷な神だ。

スチュの罪とは何か。
「君の罪は、他人に対して傲慢なこと」と告げる。
この罪は少なからず、我々観客も思い当たるフシがあるのではないか。無益な人間に対して、傲慢な態度をとることもあるだろう。(特に、我々の業界はそんな連中ばかりだ)
だから、スチュほどひどくはないが、自分もそのターゲットにされる恐れはあるぞ、と感情移入させる。観客にまったくの他人事ではなくさせて、スチュと共に本格的なゲームが始まる。

その方法がえぐい。
パムに浮気心があったことを妻に伝えよ、というスチュにとって一番の弱点をいきなりつく。
これは、スチュの仕事の方法と同じだ。相手が一番弱いところを容赦なく攻める。
はじめこそ、スチュも相手にしないのだが、目の前でチンピラが死んだり、電話ボックスを撃たれたりすると、これはいよいよまずいぞという気になる。ライフルの装填する音を聞くだけで縮み上がる。電話の主はそのたびに、クククっと不気味に笑う。さらには、警察が来てチンピラ殺しの容疑者にまでされる。

しかし、スチュも気づかれないように反撃をする。
口がうまいという武器を使って、警察に通報したり、妻に状況を間接的に伝えたりした。

だがそれすらも見破っている電話の主。
圧倒的な強さ。そして彼が決めたシナリオ通りに物事が進んでいく。
まさに神。スチュを操っている。
しかし思い出すと、スチュもそうやって相手を惑わせてきたのだ。因果応報を意味している。

スチュは罪を悔い改め、カメラに全てを告白する。
「自分は女優と寝たいだけの宣伝屋だ」
「大物に見られてくて派手なスーツに全てをかける男、自分に無益な相手は冷酷に扱う」
「オレはいつも嘘ばかり。この高級時計もニセ物だ」
「物事の本当の価値には目も向けず上辺だけ」
「自分と違う人間を長く演じすぎたから、本当のオレを知られるのが怖い。でもこれがオレの姿だ。ただの弱い人間だ」

そしてラスト、レイミー警部の協力もあり、電話の主を追い詰めることに成功した彼だったが、神は容赦なかった。
そこで彼は最後の決断をする。
自分のためではない、損得を抜きに考えた行動へ出る。
ここまでが、神である電話の主が彼にさせたかったことだった。
神は、スチュに言い放つ。
「君の誠実が続くよう祈る。もし、そうでないときは、また電話をするよ」
最後まで神だった。そのメッセージは、次はお前かもしれないぞ、という観客にも向けられている。

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