アメリカン・ヒストリーX ネタバレあり感想&映画脚本分析

アメリカン・ヒストリーX
上映時間 119分

監督:トニー・ケイ
脚本:デイヴィッド・マッケンナ

デレク・ヴィンヤード (エドワード・ノートン)
ダニー・ヴィンヤード (エドワード・ファーロング)
ボブ・スウィーニー (エイヴリー・ブルックス)
ラモント (ガイ・トリー)

ログラインは、父親が黒人に殺されたことで、白人至上主義者に傾倒した兄弟が、兄デレクの服役、そして更生をきっかけに、弟ダニーが彼らが暴走した原因に気づいていく話。

先ごろ、ツイッターを眺めていたら、何やら朝日新聞編集委員の方が炎上している様子。彼独自の視点や思い込みをもとに、ハーケンクロイツの旗を持つ人たちのデモ活動写真が掲載されているツイートを見て、この映画『アメリカンヒストリーX』を思い出した。
朝日の方は誤解を招いたとツイートを削除されたので彼のツイートの意図は不明だが、デモ活動と共に、この映画のテーマと共通する部分がどちらの考えにもあるように思う。
そこでこの映画を分析していきたい。

American History X アメリカンヒストリーX
<鑑賞済みの方を対象にネタバレありで語っていきますので、見ていない方はご覧になってからがいいかと思います>

デレクは、なぜ白人至上主義者をやめることができたのか?

校長のスウィーニーは、デレクを聡明な男と評している。もともと優等生であったデレクが、白人至上主義者に傾倒したのは、父が黒人に殺されたのがきっかけだった。

まず、父が黒人に殺されたという事実が発端になっている。
デレクは、その事実をもとに、感情が生まれ、考えが固められ、行動に移している。
その思考パターンは、彼の強みであり、刑務所生活では弱点にもなった。

事実から起きた彼の感情は、”怒り”だった。
それを鎮めるすべを、若者は見つけられなかった。
むしろ、その事実を補填する情報がやたらと目に飛び込むようになる。
外国人による不法滞在、有色人種への優遇政策、公平という美辞麗句の不公平……。
彼は、一方的な他者情報に傾倒し、怒りを増幅させ、考えがより凝り固まっていく。
そして同士を集め、自分たちを苛つかせる侵略者を追い出すという飛躍の考えのもと、暴力で実力行使にでる。

デレクの事件は、そんな延長線上で起きた。
父の形見の車を窃盗しようとする黒人グループを見つけ、つまり事実を目の当たりにし、沸騰するように沸き出た怒りの感情のもと、彼の日頃の考えに決定打を与え、容赦ない暴力で2人を殺害した。

次に、刑務所で起きたことは、彼の思考パターンの矛盾に気づくきっかけになった。

それは、同じ考えを持っていたはずの白人グループの裏切りだった。
敵対しているメキシコ人と商売をしている白人を見て、デレクは失望と怒りを抱く。周囲は、刑務所という環境の中である一定の理解を示すが、デレクの考えでは許すことができなかった。やがて彼は白人グループを離れ、一人孤立した。
結果的にその行動は、彼の身に危険を及ぼすこととなった。
皮肉なことに、最も恐れていた有色人種たちの報復ではなく、仲間のはずの白人に彼は肉体的にも精神的にも傷めつけられてしまったのである。

しかし、怪我の功名というのか、彼は、また一つ、ここで事実を目の当たりにした。
そこから生まれた感情、考え、行動に変化を与えるきっかけになった。

さらに彼の考えを補填する貴重な事実を知ることになる。
それが同じ刑務作業をするパートナーの黒人、ラモントの存在だ。

ラモントは、だんまりを決め込むデレクに構わず、おしゃべりが止まらない。
時にはKKK(白人至上主義の秘密結社)を揶揄し、黒人は刑務所では一番偉いと挑発してみたり、洗いたての洗濯物の匂いを嗅いで女を思い出すと下ネタを話し、ついにはデレクを笑わせたり、そして孤立するデレクを心配して怒る。次第に、彼らは肌の色を気にせず、心を通わせていった。
デレクは、2人を殺害したにもかかわらず、弟ダニーの証言(兄を守るため、彼の過激な思想を隠し、武装した車泥棒を追い払うための正当な行為と嘘をついた)のおかげで3年の刑期で済むことになる。
一方のラモントは、デレクよりも先に刑務所にいて、6年の懲役。とても人を殺せるような人物には見えない。デレクは彼に、何の罪なんだ、と問う。
すると、ラモントはテレビ泥棒をして6年の懲役になっていると答える。
さすがに冗談かと思ったデレクだったが、ラモントの話は真実で、さらに唖然となる話を聞く。
ラモントは、テレビを盗み、見張っていた警官に捕まった。テレビを持ったまま捕まったので、テレビを落としてしまった。それが警官の足に落ちた。警官は、黒人のテレビ泥棒が、警官に向かって投げたと証言し、それが暴行罪となった。窃盗と暴行罪で6年の懲役。ここにアメリカの闇が隠されている事実を知る。
デレクは、白人に犯されたあと、次は黒人に犯されると警戒していたが、出所するまで何も起きなかった。
出所の日を迎え、その謎がやっと解ける。
友人のラモントのおかげだったということが……。

デレクは、事実から、感情を得て、考えに影響を与え、行動を移す特徴がある。
これは、我々とも共通する。
彼は刑務所で起きた事実を目の当たりにして、白人至上主義者という凝り固まった愚かな考えを捨てた。
いかに自分が、他者による情報に振り回され、踊らされていたのかとわかったのだった。

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その考えは、あなたが考えたものか?
あなたが吐く言葉は、あなたの言葉か?

デレクは、刑務所で白人に襲われたとき、スウィーニー校長に助けを求める。過ちを反省しないまま、泣き言だけを言うデレクに彼は言った。

スウィーニー校長「私も怒りをためて生きてきた。若い頃、全てに腹を立てていた。私たち黒人に対する差別や侮辱、いわれのない苦しみ、私は白人を恨んだ。神や社会を恨んだ。だが、いくら怒っても、答えはでない」

「怒りは、君を幸せにしたか?」

こうして、デレクは過去と向き合いながら、罪を償うために刑期を務めた。
そのことを兄は、弟ダニーに何があったのかを全て打ち明けた。そして、デレクは弟に伝える。

デレク「俺はラッキーだ。自分の間違いに気づいた。自分なりに考えた。なぜ、暴走したのか。原因は怒りさ。怒りは、2人の人間を殺しても消えなかった。空しくなって、怒る気力も失せた。お前の生き方まで強制はしない。だが、理解してくれ」

ダニーは衝撃的な事実を知り、複雑な感情が湧き、凝り固まった考えは氷解していった。そして兄弟は、部屋に飾っていたハーケンクロイツのフラッグを下ろし、まっさらな壁があらわになっていく。
デレクは、シャワーを浴びながら、自分の左胸に刻んだ鉤十字のタトゥーを見つめる。
この2つの表現の意味するところは、思想との決別と、まっさらだった自分が他者の情報や意見に染まってしまったという後悔、事実を表している。

デレクのセリフに、「自分なりに考えた」とある。
これがこの映画で重要なことだとわたしは思う。

デモに参加、SNSに書き込み。自由な表現が許されているこの国で結構なことだと思う。
だが今一度、参加する前に、書き込む前に考えて欲しい。

その考えは、あなたが考えたものか?
あなたが吐く言葉は、あなたの言葉か?

ダニーは、宿題のレポートを書きながら、兄が暴走したのはもっと根が深かったことに気づく。
それは、父の影響だった。
消防士の父は、おそらく学がそれほどない設定だろう。
一方のデレクは成績優秀で、新しく赴任した教師のスウィーニーを尊敬している。
映画では、父がもともと黒人に対しネガティブな感情があったことを伝えている。だけれども、それを家族に表明するのは憚れていたはずだ。きっと自分でもその感情はいいものではないと気づいていたから、その時までは話していなかった。
しかし、息子が黒人教師を尊敬していると嬉々として話すことに、また、妻も同じ感情を持っていることに、父として、夫として、男として、つまらないプライドが働いた。プライドが傷つき、嫉妬し、怒りも湧いた。
父は、家族の尊敬と威厳を保つために禁じ手を打つ。
「もっと疑いを持って、全体を見ろ」
これは、情報に接する際の真理だ。フェアな目を養うためにはこの警戒を忘れてはいけない。
しかしそれを利用して、父は息子に、黒人教師が言うことは「洗脳だ」と断言してしまう。
疑いを持たないから洗脳されるんだ、俺が教えなかったらお前は危なかったぞと、言わんばかりに父は息子に語る。
実際にスウィーニーと接しているデレクはそんなふうに感じなかったので、新たな価値観に戸惑う。
父の気迫にも押され、父の意見を肯定的に捉えると、父は息子に魔法をかけた。
「いい子だ!」
これで、父による息子の洗脳は完結する。

あなたの考え、あなたの言葉はオリジナルか?
どうぞ自分を疑って欲しい。
誰かの情報や考えに妄信していないか。
事実を片方からしか見ているんじゃないか。

大切なのは、自分なりに考えて答えをだすこと。
誰かの声に、それがたとえ親であっても惑わされてはいけない。
声の大きい人には特に警戒して欲しい。
あなたの目は、あなたの耳は、あなたの頭はあなたのもので、誰かのものではない。
誰かの思想や考えを得意げに語って悦になんか入らないで欲しい。
本来は、同じ考え持つという理由だけで、集団になることさえ愚かだと思う。

何かに疑問を感じるなら、あなたが体験し、見て、肌で感じて、考えればいい。
その考えさえ、誰かに押しつけるようなことはしなくていい。
あなたの中で、完結すれば済むことだから。

American History X アメリカンヒストリーx

『X』に込められた意味とは?

『X』は、数学で未知数を示す記号だ。
ヒストリーとは、連続するもの。この星が続く限り、歴史は途切れることなく繋がり、続いていく。アメリカが続く限り、いや、人類が続く限りずっとこの人種差別の問題は続いていくだろう。そこに終りがあるのか、ないのか、それはこの映画では答えが出せなかった。
1998年の制作当時に描ける結末は、怒りはやまず、憎しみは消えず、命が失われた、という結論だった。
だが、その殺害されたダニーの宿題レポート『アメリカンヒストリーX』に、負の連鎖を止めるヒントが隠されている気がする。

『憎しみは耐えがたいほど重い荷物。怒りにまかせるには人生は短すぎる』
『我々は敵ではなく、友人である。敵になるな。激情におぼれて、愛情の絆を断ち切るな』
『仲良き時代の記憶をたぐりよせれば、良き友になれる日は再び巡ってくる』

今、生きる我々が直面する現実をどう考えるべきか。
誰かの言葉に惑わされるのではなく、自分の頭、心、肌で見つけたい。

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