新人脚本家になったら

新人脚本家になったら

「すぐ仕事が来るわけではない?!」

コンクール受賞して安心か?
コンクール受賞が脚本家のゴールではありません。スタートラインに立てる能力や技術があるということを証明したに過ぎません。受賞者だから、待ってれば仕事が来るなんて特別扱いはありません。仕事が来るかどうかは、その後の出会い次第です。あくまで脚本家は受注生産者です。より品質のいいものを出し続けていれば注文の電話は鳴り止まないでしょうが、いいものを出せない、あるいは人の目に触れるものがなければ、その才能は自然と埋もれ、忘れ去られます。受賞者の賞味期限は約1年。その期間にチャンスを掴まないとその後は辛く、またコンクール応募生活に戻ってしまいます。
では何を大切にするか。それは、プロデューサーとの出会いです。様々なプロデューサーがいて、色んな考えを持っています。当たり前ですが、新人が対等な立場になれることはありません。一つ一つの出会いを大切に、謙虚に接したほうがいいです。業界の常識に、理不尽さや不安がうずまきますが、それでも耐えて書き続けることで道が開けるはずです。

新人脚本家は食べていけるのか?
正直、受賞後のほうが、その方たちの人生を狂わせることが多い。大賞賞金が高額なのは、その受賞者が1年から2年は、生活の心配なく脚本に集中できる環境にするためだと思います。その間に局を代表する作家に育ってほしいという主催側の願望でもあるはずです。本人もそうなりたいと望む。
打ち合わせや締切りなどで、サラリーマンを続けながら脚本家をすることは困難になります。「日中は働いてます、対応できません」では、仕事は来ません。なので本当に脚本家になりたければ、今の仕事を辞めざるえない。あるいは仕事を減らすとか、変えるしかなくなる。必ず何かを得ようとすれば、何かを捨てなければならない。覚悟がないと、脚本家などという不安定な仕事はできません。
ですが、その人にも生活があります。食べていけるかどうかと聞かれれば、運や実力次第としか答えられず、確実に言えることは誰もあなたの人生を保証してくれない、ということです。それでも脚本家になりたい人が、今仕事を手に入れているのが実状ではないでしょうか。
新人脚本家は、当面お金の心配で苦しむと思いますので、新人未満の人は今のうちに、在宅ワークできるものや融通がきくアルバイトを見つけておくといいでしょう。資格を保持するというのも将来的に安心材料になるはずです。脚本家は、体力と精神力がないとすぐぶっ倒れてしまいますので、お金はある程度持っている状態で脚本家になるべきです。

打ち合わせは大事!
打ち合わせの仕方について、新人脚本家同士よく話題になります。苦手にしてる人が多い。そもそも作家になろうなんて人は、どこか変わっていて、コミュニケーションに難有りで、人見知りで物静かな感じの人が多いです。懐に入って打ち解ければ、普通の人よりも面白い話ができるんですが、なかなかコミュニケーションにおいてはスロースターターが多い。
中には、打ち合わせ上手の脚本家がいて、言ってはなんですが、多少腕が落ちても仕事がひっきりなしなのを見聞きすると、やっぱり打ち合わせは大事なんだと気づかされる。
その人も実はすごく努力していて、プロデューサーがまだ見ていないであろうオススメ映画や、面白い世間話などのネタをあらかじめ用意して打ち合わせにのぞんでいるそうです。相手の好みを熟知して、聞かれることを先回りして準備することを怠らないなどして、実力を打合せで補っているらしいです。
結局、対”人”と仕事するので、多少実力が落ちてもいいから居心地いい人と仕事したいと思うのは当然で仕方ありません。それで仕事がとれるなら、単純にマネした方がいいです。そう簡単なことではありませんが……
打ち合わせでは、たくさんの失敗と後悔をすると思いますが、いつか感性が合うプロデューサーと出会えるはずです。ただ、嫉妬深い世界でもあるので、多くの方と仕事をするときは、うまく立ちまわることも大事です。


↑新人脚本家がシナリオ会議で陥る話がおもしろい。みんなの意見をまとめるだけの無個性新人。みんな悩み、通る道。


↑新人必読! 打ち合わせやリライトの心得から、キャラクター作り、葛藤の流れ、構成力の身につけ方を丁寧に説明している。スクリプトドクターの目を持つ冷静さを養うことは大切。

脚本家を続ける心得として
自分の才能や作家性をアピールするよりも、仕事として上手に折り合いをつけられるかどうかが大事です。脚本家は、自分が書きたいものを書けるわけではありません。多くの意見が入り、妥協や調整をして作り上げます。直しの連続を繰り返していると、だんだんそれから逃れたくて書くべき志を忘れていきます。自分はなぜ脚本家になりたかったのか。作家として何をテーマに書きたいのかという志は忘れてはいけません。明確に持っておくべきです。しかし、上手に折り合うことも同じくらい大事なのは忘れずにいましょう。
また、一緒に仕事をしたいプロデューサーや書きたい作品があったら、それを誰かに言い続けていると、きっと誰かが巡り合わせてくれます。狭い世界なので、どこかで誰かがつながっています。その時の出会いのために準備をしておきましょう。

「プロットの書き方は?」

新人は、たいていプロットライター、企画書書きから始まります。プロットは、脚本にする前の筋書き(あらすじ)を書くこと。総じて、企画書にする仕事です。これは書いて終わりではありません。直しというのが何度かあります。そして異常に短い締切りの中、こなさなければなりません。さらにその企画書が必ず通るという保証もない。最悪、ノーギャラです。
正直、このプロットライター止まりで業界を去る新人が多い。一番は、労力に見合わない収入です。基本、ギャラはもらえないと思っていたほうが精神バランスは落ち着くでしょう。貰えたらラッキーくらいで。これは昔からの悪しき慣習らしいです。立場の弱いライターは、通らなかった企画書にギャラを要求していいものかと尻込みするのは当然。しかし何週間も、場合によっては何ヶ月も直しに直して書いたものに、1円も値段がつかないと、プロにもなりきれないアマチュアであってもプライドはあるので精神がやられます。生活も脅かされます。去っていく新人の無念な背中を見送りながら、次は自分かなーなんて悲観的になることもあるでしょう。
しかし、運よく企画が通り、脚本を書かせてもらえれば、ギャラはウン倍にもなります。ギャンブルのようです。ただ、悪いことをしてるわけではないので、企画書を書いたらプロデューサーにギャラ交渉して構いません。言えないという脚本家が多いというだけです。
プロットライターになりたくてなってる人はほぼおらず、脚本家になるために、作品にしてギャラを得るために、プロット書きは避けて通れません。

企画書の書き方は?
通常は、縦A4の横書きで、
1枚目に、表紙(タイトルと提案者)
2枚目に、企画意図(ログライン、テーマや売り、ターゲットやジャンルなどの情報。今やるべき企画であることをアピール)
3枚目に、登場人物(名前、年齢、職業や性格などを簡潔に)
4枚目から、あらすじ(全体のストーリー)を記します。あらすじの枚数に関しては、たとえば2時間ドラマの目安として、10〜15枚程度だと思います。しかしプロデューサーの好みもあるので何枚くらい書けばいいか聞くといいです。長いと読まないという方も平気でおられます。最初は少なめでいいと思います。直しが続けば増えていきますので。

表紙には、どの枠なのか(連ドラ案、2時間ドラマ、深夜、劇場映画)上部に記す。
企画意図に関しては、本来プロデューサーの方が考えて欲しいのですが、ついでに書いてということが多々あります。しかし企画は、通常プロデューサーの仕事だと思うので、よく相談して書いたほうがいいです。
登場人物には、イメージキャストを書いてもいいです。たいていは打ち合わせの段階で、話題になりますので書かなくてもいいかもしれません。キャスティング権は脚本家にないです。

あらすじ、ストーリーはどう書くのか?
心がけていることは、ストーリーラインはシンプルで分かりやすいこと。余白を多めにし、見た印象を漢字などで真っ黒にならないようにレイアウトを考える。なぜこういうことに気を使うかというと、読み手は何本も企画書を目にするので、読みにくいのは読まれないリスクがある。だからといって内容がスカスカだと、それは読まれてもボツにされる。
文章力が求められます。短文で、映像が浮かぶように書く。シークエンスごとに改行して、展開が理解しやすいようにする。シークエンスは、どこで、誰が、何をするのかを明確に。現在形で書き、ストーリーが前後することがないように、前へ進ませる。
基本的にセリフはいらない。あるなら、キラリと光る素晴らしいセリフであること。
3幕構成で書く。比率も1:2:1。1幕は3幕よりも少し多めに書いていい。1幕と3幕はテンポが速い。1幕は状況設定を分かりやすく、印象的に。3幕はどう解決するのかという見せ場があり、納得できるものに。逆に2幕は、葛藤部分なので心の変化を丁寧にゆっくりなテンポでいい。何が起きるか(障害や試練)は、2時間ドラマや映画なら4つ以上用意する。

原作や脚色との向き合い方
新人がオリジナルの企画で企画書を通すことはまず難しいので、多くはプロデューサーの持ち込み企画を手伝うか、原作の映画化やドラマ化を目指す企画書書きが多いと思います。原作の企画が通りやすいのは、単純に今売れている、人気作家、賞を獲った本だからなど、すでに一定のファンがいることである程度の数字が見込めるからです。一方で、ファンがいるので、イメージにそぐわない、期待はずれだと相当叩かれるリスクはあります。
原作モノは、3つに分けられる。まずは、原作を忠実に再現するやり方。原作のテイストを活かしつつ、映像的に盛り上がりに欠ける部分は脚色。あとは、設定だけ借りて、まるまるエピソードなどはオリジナルにする。
これは脚本家が決められることではなくて、原作者と出版社の意向があり、プロデューサーが擦り合わせ、許可をもらって脚色の度合いを決めていく。映像用に原作が書かれているわけではないので、多少の脚色はすることになるでしょう。原作に愛情を持って書いてください。

プロットを書き終えたらチェックする!
・誰の物語か、誰のシーンか、それらは明確か
・何についての物語か
・主人公は何を求めているのか、それはなぜ手に入れなければならないのか納得できるか
・なぜ主人公が求めていることが容易に手に入らないのか
・最後はそれを手に入れたのか、あるいはそれ以上のものを手に入れたのか
・登場人物や重要な情報が各シークエンスで伝えられているか
・テーマは普遍的か
・結局その作品は、観客に何を伝える話だったのか

「作家事務所に入ったほうがいい?」

仕事がない、営業もできない、人脈もない、ギャラ交渉も苦手なら入ったほうがいいと思います。入ったほうが間違いなく仕事(企画募集やコンペの機会)はあります。ただし、あなたにくるのではなくて、その会社に仕事が振られる。営業の人がとってきた仕事なので、ギャラの何%かは手数料としてその会社にとられます。しかし自分で仕事をとってきてもそれは同じらしい。
仕事は多岐にわたり、映画やテレビドラマのシナリオからアニメ、スマホゲームのシナリオまである。選ばなければ、シナリオライターとして生活できるかもしれない。
通常、作家事務所に入れるのは、すでにデビューした作家であったり、シナリオコンクール受賞者だったり条件があるところが多い。一方、作家見習いという形でデビュー前でも登録ができるところもある。シナリオコンクールに受賞してデビューするという王道を捨て、作家事務所に作家見習いという形で入って、そこでチャンスを掴みデビューするという人も近年増えている。ただ、中には、悪徳な作家事務所もあるそうなので、情報収集してからがいいだろう。

その他に、作家集団がある。少し名が知れた脚本家が主体で、その弟子みたいな感じでいれば、仕事が回ってくるらしい。師匠のネームバリューと信頼で来るので、もちろんギャラの何%かは師匠に入る。しかしありがちだが、パワーバランスがあるので変な噂(セクハラまがい)を聞くことがあるので要注意の場合がある。

あと、若手で構成された作家集団も近年増えている。強みは、作家の一人に仕事が振られると、仲間の作家たちが総出で取り組む。すると企画数が増えて、企画が欲しいプロデューサーには重宝される。ギャラは企画が通った人が、プロデューサーと交渉するのでギャラの分配は基本ない。だが、いいプロデューサーから仕事を振られればいいが、便利に使われるおそれはある。そこらへんは業界の怖さでもある。

いずれにしろ、売れっ子作家でない限り、個人でやると人脈はなかなか広がらず、仕事にもなかなかありつけません。それならば適当なところを選ぶか、信頼してるプロデューサーや業界関係者に相談し、口利きをしてもらったほうがいいだろう。新人は、まず仕事にありつけることが最重要課題だ。