脚本執筆の前に
「ストーリーを一言で語れるか?」
友人を映画に誘うとき、必ず聞かれることがあります。
「どんな映画なの?」
この問いの答えがつまらなければ、その友人はおそらく見ないでしょう。あるいは、こうなってああなって……と説明が長くなっても、これまた見る気が失せます。
脚本を執筆する前に、その会話を想定して、「魅力的で面白いワンラインのストーリーが作れれば、お客さんは見てくれるだろう、面白い作品になるだろう」そう考えた脚本家の方がいて、物語を作る出発点の考え方として広まったのが、ログラインというものです。
ログラインとは?
『こういう主人公が、こんなことに出会ってあんなことをして、こうなった話』という風に、簡潔に語れるストーリーをいいます。あくまで主人公の変化の軌道について考えます。
たとえば、タイタニックのログラインは、 『豪華客船タイタニック号に乗船した貧しい青年が、上流階級の女性と運命的な出会いをするのだが、船が沈没する事故が起きてしまい、悲恋の結末を迎える話』
ゼロ・グラビティのログラインは、 『宇宙で船外作業中の女性宇宙飛行士が、スペースシャトルに宇宙ゴミが衝突し、宇宙空間に投げ出されてしまうのだが、それでも地球に帰還する話』
このように、ある日常に、非日常的な事件があって、どうなったのか、ということを簡潔に説明できればいいです。
タイタニック号に乗船した貧しい青年が、上流階級の女性に失恋をした話、では面白くありません。
宇宙で船外作業中の女性宇宙飛行士が、地球に帰ってきた話も当たり前で見ません。
興味を引く事件や出来事を用意して、キャラクターがどんな行動をしたのかが、脚本の面白さを決めます。
ログラインは、執筆前に必ず考える。そして友人などに、ログラインを試しに話してみるといいでしょう。そこで「つまんなそう」と言われたら、また話を変えればいいんです。
「葛藤、対立、そして変化はあるか?」
全てのドラマは、葛藤、対立、そして変化といわれます。
脚本初心者の方がなかなかうまく書けないのが、葛藤です。2幕は葛藤のパートであり、1幕と3幕に比べて分量が多く、観客を引きつけないとその映画やテレビドラマは失敗してしまいます。シナリオコンクールで1次選考も通らない場合は、この葛藤が書けていないことが多いと思います。
葛藤とはなにか?
葛藤とは、対立することです。衝突ともいえます。ある目的(欲求)を持った主人公の前に、達成を阻止する障害や対立がある状態。あるいは、一方の目的を達成させようとすると、もう片方を失うので、迷い、せめぎ合う状態が葛藤です。
外的葛藤にしても内的葛藤であっても、重要なことは、主人公の目的があるがゆえに起こるということです。目的を諦めたり、目的が達成されてしまえば、葛藤はなくなるのです。
大切なのは、主人公が抱く目的に観客が納得できるかどうか。目的の初期設定があまりにも高いとリアリティーに欠けて観客は納得できません。その逆は、興味がわきません。
「ある男が人類を救うために戦う」は、よくあるSFの話ですが、葛藤部分はほとんど愛する女性、家族を救うという目的で主人公が動いているはずです。人類を救うのは結果であって、お話のベースは最も単純で普遍的な欲求に落としています。人類を救うという目的は、観客にとってリアリティーに欠ける話なので、途中から目的が身近なものに置き換えられます。そうでなければ、観客は感情移入がしづらいです。
さらに、葛藤がうまく書けない人の多くは、その目的の初期設定がまず低いことが考えられます。または、シーンを重ねるごとに目的のハードルが下がってることに気づいていない。
対立する敵やライバルがいる場合は、主人公よりも若干強いという設定にしておきましょう。主人公よりも弱い敵では、その敵が出てくる理由がありません。逆にすごく強い敵を作ったならば、それに対応できる師がいたり、仲間ができたりと、バランスが必要になります。大事なのは、観客に敵の方が強いと思わせる必要があるということです。なければ、ハラハラしません。
障害のハードルの上げ方を間違っていないか?
多くの脚本家(プロアマ問わず)は、冒頭の10分が大事!と頭にインプットされていて、やたらド派手なアクションをその10分に注ぎ、結果的にそこがピークだったなんていう作品があります。こういう作家はド派手なアクションが障害だと勘違いしてる。
障害は、そのキャラクターに乗じて用意しないといけない。キャラクターには、必ず弱点があるので、そこをネチネチいじめる。それに対するリアクションがその人物の葛藤に結びついていきます。
良い障害にするには、主人公が目的さえも放棄して逃げ出したくなるが、進むも地獄、退くも地獄状態にしてしまう。そうすれば、作者自身も追い込まれるので、まったく思いもつかなかった打開策を発見することがある。その多くが、キャラクター自身が見つけてくれます。
障害は、見映えではありません。キャラクターにとって、障害になっているかどうかです。
手っ取り早い障害の作り方はある?
海外も国内ドラマも障害としてよく使われるのが、タイムリミットです。これはどうしたってハラハラドキドキさせられてしまうし、乗り越えないといけない障害だとわかりやすい。とても使いやすいため、これに頼りすぎると癖になり、違うドラマを書いていながら毎回使ってしまいかねません。困ったときの”タイムリミット”くらいにしておきましょう。
変化とはなにか?
変化のパートは、2幕終わりのターニングポイントから3幕で現れます。葛藤、障害を乗り越えたときに、主人公の変化がきっと見られるはずです。もし1幕の人物となんら変化していなかったら、これはまずいです。観客は、どうなるの?の連続で見続けますので、結果的に主人公は変わりませんでした、では納得がいきませんし、そもそもどうやって3幕で解決できるんだって話になります。
たいていの映画やテレビドラマは、主人公の周囲にいる人物も変化しているはずです。変化とは、キャラクターの成長です。
「キャラクターの作り方は?」
脚本を書く前に、キャラクターは90%以上作り上げておかないと行き詰まります。キャラクター性は徐々に出るものではなく、1幕目から提示していかないとその後の行動やリアクションにつじつまが合わなくなります。ご都合的な作品を書いてしまう人は、キャラ設定ができていないまま走りだしてることが多い。
キャラクターが出来ていないと、セリフも出てきません。キャラクターにはぴったりのセリフが浮かびます。近年のテレビドラマは、決めゼリフを欲しがります。しかし言葉先行ではまったくセリフは生きない。やはりそのキャラクターがあってこそのセリフじゃないと意味がありません。
魅力的なキャラクターとは?
魅力的というのは、人をひきつけられるかどうかということです。主人公が突飛であったり、奇人変人みたいな外見的なことと勘違いしがちですが、それは少し違うと思います。その要素もあっていいですが、大事なのは主人公の動機や目的がハッキリしていることです。
彼(彼女)が何をしたいのかが観客に理解されなければ、その人物に興味を抱いて、映画を見続けることは困難になります。目的や動機が複雑であればあるほど感情移入するタイミングは逸してしまう。だから何をしたいかという動機は、複雑であるよりシンプルであるほうがいいが、目的を達成する方法はユニークにする。見せ方として、どういう設定でどういう展開がキャラクターにとって困難な事柄かを考える。困難な状況を打破できるキャラクター独自の言動、世界観に新しさがあると、一見似たような設定の映画でも新しく見えるものです。
人の魅力が出るのは、窮地に追い込まれたり、究極の選択をするときです。ですから、主人公が受け身であってはダメです。行動力不足にならないように注意しましょう。
キャラクターには弱点を用意する!
人は誰でも苦手なことがあります。そこを避けて通るのが常です。ですが、大事なときに限ってその弱点と対峙しないといけない状況が人生にはある。そのときこそ、人が成長できる瞬間であり、その人のキャラクター性が出る瞬間でもあります。
テクニックとして、長所が弱点になったり、弱点が長所になったりするとドラマ性が出てきます。
キャラクターに癖や小道具を用意し、魅力を増す!
キャラクターに特徴を出すとき、その人物の癖、あるいは小道具を使うことも効果的です。癖は刑事ドラマの主人公によく出てきます。それが長所でもあり、短所になったりもする。小道具も眼帯をしたり、腕に包帯を巻いたり、飴を常になめていたりすると、なんでだろう?という謎が1つできて、目を引く。キャラクター説明を省ける場合もあるので、適切な癖や小道具を発明できれば、キャラクターを印象づけることに成功できるでしょう。
「オーラ」と「弱点」を持った主人公と、「カリスマ性」と「欠点」を持ったライバル、それに読者のために「ボケ」と「ツッコミ」をしてくれる引き回し役――
この三者が、「キャラクターを起てる三角方程式」と小池一夫さんは提唱されています。
まさにその通りです。ヒットするドラマはほぼ間違いなくこれに当てはまる。特に、職業もの、ラブコメはキャラクターが大事なので、このヒットするキャラの三角方程式を考えるといいです。『人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方』は良著。オススメです!
キャラクター作りは、漫画から学ぶことが多い。『荒木飛呂彦の漫画術』も良著。オススメです!
キャラクター作りのノウハウが全て詰まってる。これ一冊あれば、なんでも書けるほどの良著。絶対にオススメです!
「執筆前のチェック事項!」
ストーリーのログラインやキャラクターを考えたら次のことをチェックするといいです。
タイトルを決める!
タイトルは、その映画やドラマを象徴的に語れればいいと思います。
「何の映画?」と聞かれて答えやすいのがいいのではないでしょうか。好みではありますが、響きがダサいとか、長ったらしいのは良くない気がします。特に映画はチケットを買うとき、そのタイトルを相手に伝えなければならない。言いづらいとそれだけで面倒です。
ただし、コンクールは凝ったほうがいいという意見が多いです。それは読み手のモチベーションに関わるからかもしれません。しかし、タイトルが作品の評価を左右するかどうかは別問題だと考えられます。
メインプロットだけではなく、サブプロットも用意する!
メインストーリーだけを追うドラマは退屈なものです。たとえば、宇宙人を倒す映画だとしたら、ずっと宇宙人と対決してるのは同じことの繰り返しになってしまいます。
そのとき用意するのが、サブストーリーです。サブプロットなんて言い方もされます。
サブプロットは、メインプロットから新たな視点としてずらす役割があります。メインプロットからでは見えてこなかった解決策のヒントや新たなカセができたりします。
サブプロットは、2幕目に用意します。そしてメインとサブで2本のストーリーを走らせる。別に2本だけじゃなくても構いません。うまい人は、3本も4本も走らせます。ただし、終盤にかけて、メインプロットに合流しなければいけません。サブプロットを用意したら、必ずメインプロットにつながるようにする。全ては、メインプロットの目的を達成するために補助的に作られたストーリーなんだということを忘れないように。
2幕にミッドポイントを作る!
ミッドポイントとは、ドラマのちょうど半分のところです。つまり、2幕の真ん中。
何をするかというと、主人公に仮の成功、またはその逆を体験させます。なぜそんなことが必要なのかといいますと、それを用意することで、2幕のターニングポイント前と物語の落差をつけられるようになるからです。落差があれば、観客は感情を振りまわされます。
たとえば、イケてない主人公が、清楚でイケてる女子に一目惚れして恋人になりたいという目的がある場合、ミッドポイントでその女子との初デートを用意します。キスまでしてもいいです。ここで主人公と観客に仮の成功例を見せます。しかし、そこから2幕のターニングポイントまで、真っ逆さまに主人公を落とします。その女子がデートをすることになったのは、本当は罰ゲームだったとか、その女子は地元では有名なビッチだったとか、次々と主人公にとって都合が悪く、その女子に幻滅する事態が起きます。目的達成を遠ざける外的要因が現れます。もちろんそれらは、主人公の弱点を執拗に突いてきます。
なぜそれが必要なのかというと、大抵の人間はそこで目的を諦めます。しかしドラマはその先が見たい。そんなことがあっても、「やっぱり好きだ!」がドラマです。3幕の目的達成するにはそれらも乗り越えないといけない。さて、主人公はどうするのか?がお話です。
このようにミッドポイントは、3幕の解決に向けて、主人公の変化に大きな影響を与え、加速させる役割がありますので、作っておくといいです。
あらすじを書く!
1時間モノであれば800字。2時間モノであれば1600字くらい。3幕構成の1:2:1の分量で、主人公だけを追って書いてみてください。
試せば分かりますが、意外と収まりません。その時は、構成のバランスがよくない。余分な情報が多く、自分の中でまだ要領よくまとまりきれていないことがわかります。
念には念をタイプは、アウトラインも用意する!
アウトラインは、1幕、2幕、3幕にどんな人を、どんな事柄を、どこまで解決するかを箇条書きで羅列していきます。
まず、1幕と2幕の最後の行に、ターニングポイントを記します。次にエンディング、オープニングのエピソードを記す。それから穴埋めのようにエピソードを追加していきます。
<1幕についてチェック事項>
・最初の10分で観客を掴むことができるエピソードか
・そのドラマの状況設定が分かりやすく提示できたか
・そのドラマの展開を暗示できているか
・ほぼ全てのキャラクターが出ているか、または出ていなくても暗示できているか
・2幕から始まるドラマのためのきっかけ、事件は用意されているか
・ターニングポイントがきちんとあり、適切な場所で起きているか
<2幕についてチェック事項>
・サブプロットはあるか
・ミッドポイントはあるか
・主人公の目的に対して、障害が用意され、ハードルが上がっているか
・対立する相手は手強いか
・主人公は苦しみ、葛藤しているか
・最後まで展開が読めない作りになっているか
・ターニングポイントで主人公はどん底に落ちているか
・1幕や2幕よりエピソードの数が減っていないか。減っていれば薄い作品
<3幕についてチェック事項>
・主人公なりの解決策を見つけ、主人公の本当の目的は達成され、変化できたか
・解決のみに焦点が当たっているか
・ちゃんとメインプロットとサブプロットは解決できたか
・クライマックスは物語の最高潮に到達しているか
・それはテーマに沿った解決だったか
・観客のカタルシスにつながる構成になっているか
・その世界観や解決方法は視聴者や観客は納得できるものか
最終チェック!
忘れがちですが、これから書こうとしている作品が、何かの映画やドラマですでにやられていないか確認して下さい。書いた後に、あの作品と似てる!となっては問題です。受賞発表後なら、なお大変です。知らなかったでは済まされないので、ネット検索でキーワードを入れ、似た作品がないか確認しましょう。そして似た作品があれば、必ず観ておくように。良い部分や悪い部分を発見でき、作品に活かせます。
さあ、脚本を書く準備はできました!