脚本のルール
「脚本は、映像にするための設計図」
初めて脚本を書こうと思ったとき、多くの人は脚本を読んだことがないと思います。
脚本の書き方にはルールがあります。それが小説と違うところです。なぜ小説と違い、ルールがあるのかというと、読み手が限られているからです。
脚本を読む人は、映画やテレビドラマ制作に携わる方々になります。
脚本家が図面を引き、工務店のテレビ局や制作会社が、監督や役者、カメラマンや大道具さんを用意して、完成させていく。完成した家を購入するのが、観客や視聴者というわけです。
ですから、一般の方が脚本に触れることはないんですね。
「柱、ト書き、セリフとは?」
シナリオは、
A.場所と時間を指定する『柱』
B.人物の動作などを示す「ト書き」
C.人物が話す『セリフ』
この3つのパートで構成されます。
A.柱について
柱とは、シーンの場所、時間の指定を書きます。
柱の先頭は、『◯』を入れてから始まります。ここにはシーンナンバーがつけられる場所です。ナンバーを省略するために『◯』で代用しています。
◯アパート・桃太郎の部屋・玄関前 (早朝)
なぜ柱が必要なのかというと、どこでそのシーンを撮影したらいいのかという制作陣に対する指示になります。時間の指定は、そのシーンが、朝なのか、夕方なのか、夜なのか、脚本家の頭に描いたものを忠実に具現するためです。
ですので、曖昧に書くのは不親切です。ただし、指示どおりになるかは、監督の判断です。
細かい話ですが、コンクール受賞作は、低予算で制作可能かどうか見てると思います。プロなら当然予算を考慮します。その感覚があるのかどうか、柱の立て方のセンスも、1つの指標になるのではないでしょうか。国内制作は予算が少ないですから、やたらと柱を多くしたり、場所が海外などあっちこっち指定すると実現は難しくなります。
また、柱の立て過ぎは、テンポが落ちます。その逆もしかりですので、1時間ドラマの柱がいくつあるか研究するといいです。おそらく50前後なのではないでしょうか。
時間の指定は、『早朝』『朝』『夕』『夜』『深夜』と記し、昼は省略して書かない場合が多いです。昼間のシーンが多いほうが撮影がしやすいので、夜ばっかりとかはあまり良い作品とは思えません。
時間の指示は、照明スタッフさんの参考になります。撮影スケジュールの目安にもなるので、細やかな配慮が必要です。撮影現場に行くと分かりますが、多くのスタッフさんが台本を持って駆けずり回っています。その方々のためにも適当に書かないように!
他にも、柱にはルールがあります。
◯同・リビング
のように、続くシーンが、アパート・桃太郎の部屋内であれば、『同』と省略ができます。
回想シーンは、
◯(回想)同・リビング
と、場所の前に(回想)と分かりやすく入れておけば、それが回想シーンなのだと理解されます。終わるときは、そのシーンの最後に(回想終わり)と記しておけばいいです。
あるいは、次のシーンで、
◯(戻って)同・リビング
としてもいいです。
柱については、だいたい以上です。興味があれば、シナリオを手に入れて確かめてみましょう。細かいところで、人それぞれ書き方が違うこともありますが、一応これが基本です。
B.ト書きについて
ト書きとは、人物の動作や状況を記します。
◯アパート・桃太郎の部屋 (早朝)
桃太郎、目覚まし時計を止める。
桃太郎「眠い」
と、また眠る。
『と、<行動>。』これが、ト書きです。『ト、<行動>。』
難しいのはどこまでト書きを書き込むかです。
プロデューサーや監督によって好みがあるので、聞いてみるといいです。ト書き部分に関しては、現場に任せてくれという方と、ちゃんと心情を表すト書きにして欲しいという場合があります。
コンクールの場合はそんなに細く書き込まないほうが好まれるかもしれません。
書き方のルールとしては、上から3字下げて、人物の動作や状況を記します。そのシーンの現在の状況を指示するので、基本的には現在形で書きます。過去形で書かないほうがいいです。過去形で書く場合は、何か作者の意図があると思われます。それについて答えられなければ、現在形にしておきましょう。
また細かいことですが、
◯:桃太郎、目覚まし時計を止める。
△:桃太郎が目覚まし時計を止める。
というように、『が』がいりません。
これはテンポやリズムが出やすいのでそう書いたほうがいいというだけだと思います。私もシナリオを教わったとき、「桃太郎が」「梨花子が」というふうに書いていると、脚本を読み慣れている先生から「何か意図があって書いているならいいが、癖ならやめなさい」と注意されました。またテンポが悪いと注意されていたのも、この表記にするだけでずいぶん変わりましたので、同じ癖がある人は一度やめてみましょう。
<人物名を最後に示すとき>
梨花子「赤鬼が帰ったわ!」
ホッと息を吐く桃太郎。
桃太郎のホッとした表情がアップになるよう指示していると考えられます。このへんは監督によってくみ取り方が様々なので、絶対ではありませんが基本はそうです。作者はそういう映像が浮かんでいるということです。映像としてまったく違うものがあがっても、監督判断ね、と割り切りましょう。
<初登場の人物は、フルネームの後に(年齢)を書く>
高橋桃太郎(20)、きび団子をこねる。
以降は、桃太郎でいいです。あるいは、高橋と苗字でもいいです。
女性や子供が人物の場合は、苗字ではなく、名前で統一するのもルールです。
<テロップの書き方は、『T』と書く>
T『半年後』
桃太郎、きび団子の店を開く。客はまばら。
フラッシュ(非常に短い回想、若しくはイメージ)とかは、
桃太郎、赤いパンツを見た。
× × ×
(フラッシュ)
鬼ヶ島の浜辺。
桃太郎、赤鬼に食べられそうになる。
× × ×
呼吸が乱れる桃太郎。
C.セリフについて
セリフは、行頭に誰のセリフなのか人物名を書き、カギ括弧内にセリフを書きます。2行目以降は、1字下げるのがルールです。(※上図のシナリオ参考)
<セリフの感情や動作を交えたセリフを表現したい時>
桃太郎「(苦笑いで)きび団子だけで鬼退治は無理だよ……。往復14時間もかかったし、それに」
梨花子「(厳しい目で)それでも行くのよ」
三点リーダー『…』や傍線「―」が必要な場合は、2マス分使用する。
<人物の声のみの場合は3通りある>
桃太郎N「父さん。相変わらず鬼が暴れているわけで」
ナレーション。朝ドラなどでよくある語り部。ドラマ冒頭の説明などの声などは、『人物名N』と書く。
モノローグ。人物の独白。心の声は、『人物名M』と書く。
また、『人物名の声』と表記してもよい。ナレーションなのかモノローグなのかが曖昧であったり、単純にその場面に出てこない人物の声だけがほしい時などに使います。電話の相手とかの場合も『桃太郎の声』というように書く。
脚本の書き方のオススメ本は、
シナリオの基礎技術 新井 一 (著)
「3幕構成とは?」
映画で最も使われる構成方法があります。それが3幕構成です。これはハリウッドでは当たり前に求められる型です。国内のシナリオスクールで3幕構成を教えてるのか知りませんが、アメリカの映画スクールは3幕構成を必ず学ぶそうです。脚本作りは、まずはその型に落としこむことから始めると考えてください。
<3幕構成について>
ストーリーには、1幕に発端(状況設定)、2幕に中盤(葛藤)、3幕に結末(解決)があります。これを簡単に表しますと、ある日常から(1幕)、非日常へ飛び込み(2幕)、新しい日常が始まる(3幕)構成と考えてください。ある日常から、非日常へいきました、ではダメです。必ず3パートに分かれます。
たとえば、『SAW』という映画は非日常からスタートしてるじゃないかと思われますが、あれはストーリーの外見上そうですが、主人公を追うと3幕構成になっています。
まず主人公は、なぜこんな状況になったのかという日常を思い出します。これが1幕です。そして、その状況を受け入れ、今起きてる非日常をどう打開し、元の日常へ戻るのかという格闘をするのが2幕。3幕で、なぜこんなことになったのかという謎が解け、彼らをハメた犯人の思惑も理解し、主人公は新しい日常を迎えるはずが、ああいう結末を迎える、という作りです。
つまり、ストーリーを3等分するのではなく、主人公の話を中心に3等分する。
3幕構成を学ぶときの良い教材は、ピクサー映画です。
おすすめは、トイ・ストーリー3
きっちりと『1:2:1』の分量で書かれてると言われてます。
120分の映画ですと、1幕が30分、2幕が60分、3幕が30分。
ピクサーはルールがちゃんと出来ているそうです。そういう情報も公開してますので、検索してみるといいでしょう。
わたしなりに『トイ・ストーリー』について、脚本分析していますので、よろしければ、こちらのコラムもどうぞ。
ピクサー本もオススメ!
メイキング・オブ・ピクサー―創造力をつくった人々 デイヴィッド A.プライス (著)
ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法 エイミー・ワラス エド・キャットムル (著)
PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話 ローレンス・レビー (著)
<1幕は何を書くのか?>
1幕は、発端と呼ばれるパートで、どんな人物が、どんな状況で、何をしたいのかをまず観客に知らせします。ここで失敗すると、いつになっても観客はストーリーに乗れないという事態が起きます。
たとえばSFなんかは制約のある世界観なので、観客とその世界観を共有しない限り一緒に旅に出られません。なんかよくわからない映画の場合は、この1幕目が失敗してることが多いです。連ドラなんかも、1話目に、主人公が何をしたいドラマなのか、がはっきりしないと視聴者に嫌われます。そのキャラクターらしい動機付けがきちんと明示できていないと、見続けようという視聴者の動機につながりません。
<どんな人物が、どんな状況で、何をしたいのか、をどう書くか?>
『どんな人物か』というのは、主人公のキャラクター設定になります。キャラクター設定についてはまた後述します。
『どんな状況か』というのは、ドラマの設定、世界観、ジャンルです。観客の理解が必要であれば、わかりやすく、丁寧な説明をします。スターウォーズなんかはオープニングが説明で始まります。こういう世界があることを理解してみてくださいね、という提示がSFなんかは多いと思います。もちろん世界観の見せ方は様々です。そこがアイデアの見せどころでもあります。
『何をしたいのか』というのは、その映画、ドラマの旅の明示です。観客は、この人物が今から旅に出て、どうやらあの目的地へ向かいたいらしいということを理解します。キャラクターの動機付けに納得をさせ、2幕へ向かいます。
<2幕は何を書くのか?>
2幕は、主人公の葛藤を通して、観客に感情移入をさせていきます。
葛藤させるには、目的達成を阻む対立と障害が必要です。対立する悪役やライバルはいつも主人公よりちょっと強くないといけない。障害はそれを乗り越えないと、もっと悪い事態になるという切迫感がないといけません。
1幕で提示した主人公の目的達成に、観客は応援しつつ、ドキドキ、ハラハラ、イライラしながら、2幕で主人公の成長を見届けます。葛藤と成長を飽きずに見続けさせるには、主人公が目的達成しそうになったら突き放すというのを繰り返すことです。脚本家は、主人公に対して、ドSになる必要があります。それも全ては主人公の成長のためだと愛を持って厳しくいじめ抜いてください。
<3幕は何を書くのか?>
3幕は、解決のパートです。「主人公はそれでどうなった?」が解決していないと不完全燃焼になってしまいますので、カタルシスのあるエンディングをきちんと用意してください。
このパートでは、主人公の目的達成がクライマックスです。それと同時に、主人公の人間性も1幕より変化していることが重要です。
新しい日常とは、1幕の日常よりも視界が晴れ、変化した自分を受け入れ、そして新たに前へ進むということです。この変化は、主人公だけでなく、主人公の周りの人間も影響を受けているはずです。
そしてテーマを感じさせる。この映画はこういうことを伝えたかったんだと感じさせることができると、感動が増します。
<ターニングポイントを必ず作る!>
2幕と3幕の入口の前に、主人公のターニングポイントが必ずあります。日常から非日常に入るきっかけ(1幕→2幕)、非日常から日常へ戻るきっかけ(2幕→3幕)を作ります。
1幕に作るターニングポイントは、2幕の非日常へ向かうために、主人公が重大な決断をする場面です。どうやら今の日常から離れて、旅に出なくてはいけないらしいと主人公が気づくわけです。あるいは、旅に出ざる得ない、逃れらない状況を作ってしまいます。なぜなら、2幕からが本当の意味での”ドラマの始まり”になるからです。
2幕に作るターニングポイントは、3幕の日常へ戻るために、主人公は解決策を見つけ、後は実行に移すという決断をする場面です。3幕のゴールは決まってるので、最終的に主人公がどんな風に解決をするのかに注目が集まります。キャラクター性を活かしたユニークなアイデアであると面白い作品だと思われます。
面白いというのは、観客が納得ができたときに感じられます。「なるほど!」と思うとき、人は面白いと感じるので、キャラクターにそぐわない結末や解決策は駄作になりますので気をつけましょう。
脚本の構成についてのオススメ本は、
脚本家志望で、シド・フィールドを知らないとまずいかも。基本中の基本構成がわかる!
映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術 シド・フィールド (著)
SAVE THE CATの構成は、よくできているので、プロの脚本家も実際に使ってる人が多い。
SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術 ブレイク・スナイダー (著)
スクリプト・ドクターのリンダ・シガーによるライティング・メソッド。昔から人気で古本屋でもなかなか手に入らないが、あったほうが絶対にいい。
ハリウッド・リライティング・バイブル (夢を語る技術シリーズ) リンダ シガー (著)
2016年、すごい本が出たと驚いた。脚本家仲間ですでに話題になっている本。とにかく読めばその内容の素晴らしさに気づくでしょう!絶対にオススメ!!
「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方 カール・イグレシアス (著)
ゲームシナリオも書いているが、普段ドラマ畑にいるのでストーリーテリングについて説明することはない。だが最近頻繁にゲームシナリオの相談をゲーム会社から受ける。そして何度ストーリーやストーリーテリング、ドラマについて説明しても理解してくれない。この本は私の代わりに全て説明してくれているので、ゲーム会社のシナリオ担当の方にぜひおすすめしたい。
観客を惹きこむインビジブルインクの法則 (共感するストーリーを構築するための実践テクニック) ブライアン・マクドナルド (著)
気になる箇所を見つけた。
『1993年アメリカで最も多くの漫画発行された。しかしその数年後、漫画の発行部数は激減し、媒体の存続そのものが危ぶまれた。なぜこんな大転換が起きたのか?
原因は、ストーリーとストーリーテリングの欠如だった。』
現在のソシャゲ関係のゲームシナリオも同じように感じる。ぜひ勉強し、生き残っていただきたい。