コメディー

アナライズ・ミー ネタバレあり感想&映画脚本分析

アナライズ・ミー ネタバレあり感想&映画脚本分析

作品紹介

アナライズ・ミー
上映時間 103分

監督:ハロルド・ライミス
脚本:ケネス・ロナーガン、ピーター・トラン、ハロルド・ライミス

ポール・ヴィッティ (ロバート・デ・ニーロ)
ベン・ソベル医師 (ビリー・クリスタル)
ローラ・マクナマラ (リサ・クドロー)
マイケル
プリモ・シンドーネ
ジェリー

ログラインは、刺激のない仕事にウンザリ気味だった精神分析医ベン・ソベルのもとに、パニック障害を患ったマフィアの大ボス、ポール・ヴィッティが現れ、マフィアの抗争に巻き込まれながらも危険を顧みず彼の治療に向き合う話。

コメディーを作る際、いかに緊張状態を作れるかがキーです。
桂枝雀さんの言葉を借りると、笑いとは、
『はじめグーッと息を詰めてパーッとはき出す。グーッが「緊張」でパーッが「緩和」。緊張と緩和が笑いの根本。「笑い」の元祖となると、我々の祖先が大昔にマンモスと戦ってそれを仕留める。戦ってる時はエラ緊張だから息を詰めてる。けど、マンモスがドターッと倒れたら息をワーッとはき出して、それが喜びの「笑い」になったんや』

コメディーは、キャラクターのアクションやリアクション、言葉遊びやセリフ回しなどが重要に感じますが、それ以上に大切なのは笑いを生む構成です。さらに、緊張状態が作り易いキャラクターを生み出せるかどうか。この映画はベタな設定ですが、面白いコメディー作品でしたので分析していきます。

アナライズ・ミー

<鑑賞済みの方を対象にネタバレありで語っていきますので、見ていない方はご覧になってからがいいかと思います>

緊張の作り方

笑いは、緊張と緩和を作ることをまず考えます。
作り方は、緊張が先でも、緩和が先でもどちらでもいいと思います。
重要なのは、どうやって緊張を増すことができるか。グーッと息を詰められるかで、緩和のときの笑いの大きさが変わる。

たとえば、この場面。
精神分析医ベン・ソベルの患者に、何でもすぐに同意してしまう男性がいます。
ベンのアドバイスに「はい、そうです」と何でも同意してしまうので、治療がにっちもさっちもいかない。そんな彼に、ベンは「他人に同意しないで、自分の意見を通していいんだよ」と助言していたところ、突然ヴィッティの腹心でコワモテのジェリーが診察室にやってきてしまう。
慌てるベン。ここでもし患者に意見を通されたらややこしくなり、緊張が増す展開。
ジェリーが、ボスのポール・ヴィッティを診察しろと、強引に患者を追いだそうとする。
「100ドルか?150ドルか?」と金で解決しようと迫ると、患者は、意を決して「300ドル」と意見をいってしまう。
ベン的にはヤバい!!となるのだが、ジェリーは300ドルを患者に支払い、「頭が正常じゃねーか」と患者にツッコミ。”すぐに同意してしまう患者”も「自分の意見を通せた!」と克服できたことを喜ぶ。ベンの治療は思わぬ形で成功。無事に緩和もでき、笑いが生まれた。

また、これは前フリにもなっています。
何でも同意してしまう患者に、自分の意見を通していいと助言しておきながら、ポール・ヴィッティが現れると、ベンは自分の意見をねじ曲げて彼に同意してしまう。先程の患者と医者が逆転する展開。そこがまたクスクスと笑いが起こる。
ベンの置かれている状況が、緊張状態の連続になればなるほど、この映画の面白さが増す構造になる。

笑いのパターンを作る

この映画で印象的なのは、ポール・ヴィッティが、ベンのアドバイスにより、すぐに立ち直ると始めるアレ。
ベンを指さして、「You. You. 〜」と始まるあのパターンが印象的です。
スクリプトを読むと、パターンとしては用意されているようですが、あんなにひっぱるのは、現場で生まれた笑いなのでしょう。ロバート・デ・ニーロが遊んだのかな?

「あんた、あんた、あんたは名医だ」
ベンは必ず謙遜する。「いや、いや」
それでも、ヴィッティは指さして、「You. You. 」と続ける。
ベンがまた謙遜する。
すると、ヴィッティが「逆らうな!」と怒るあのパターンは面白いです。

コメディーはリスクが大きい(笑えなければ駄作)ですから、こういったキャラクターを使ったパターンを作るのも1つの手でしょう。
また、パロディーもクスクス笑いには使えます。

悲劇と喜劇は紙一重

結婚式会場に、人が落ちてくるっていうのは悲劇ですけど、ベンの結婚式でそれが起こると喜劇になる。ベンが絶頂なときに、必ず邪魔をするヴィッティというこれも1つのパターン。
最高と最悪をかけ合わせることで笑いが生まれる。
観客は、いつの間にかそのパターンを刷り込まれているので、ベンが最悪になればなるほど面白いことが起こるのでは?という笑いの構えができる。そして緩和があると、悲劇でも笑える。

『ドンデン返し』と『謎解き』がうまい人は、コメディーもいける!

ドンデン返しの『ドン』が緊張で、『デン』が緩和。
謎解きの『謎』が緊張で、『解き』が緩和になります。
どちらもわかるように、緩和でダラダラしてはダメです。緩和のところで、「なーるほど!」とすぐに理解できないと面白さが伝わらない。
桂枝雀師匠に笑いのメカニズムを学びましょう!

コメディーを書ける人は、たった5分の枠でも観客を笑わせられる

コメディードラマを書きたいという脚本家志望の方はけっこう多いと思いますが、まず長い作品を書くのではなくて、5分という枠の中でも緊張と緩和を伴う笑い話が書けるかどうか試してみるといいです。意外に書けないことを知るでしょう。
私の周りにもコメディーが得意と自負する脚本家が多いですが、たった5分のミニドラマでも笑える話が作れない方が多く見受けられます。(本人は面白いと思い込んでいる)
コメディーを書けるかどうかは、どうしたらドッと笑いが起こるかという理論や構造を書き手が理解していないと、観客を笑いに導くことができません。
コメディーが、一番脚本家の上手い下手がバレてしまうので、良作のコメディーで学ぶといいでしょう。日本の芸人さんのコントも大変参考になるのでオススメです。