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インセプション ネタバレあり感想&映画脚本分析

Inception

インセプション ネタバレあり感想&映画脚本分析

作品紹介

インセプション
上映時間 148分

監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン

ドム・コブ (レオナルド・ディカプリオ)
サイトー (渡辺謙)
アーサー (ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)
モル・コブ (マリオン・コティヤール )
アリアドネ (エレン・ペイジ)
イームス (トム・ハーディ)
ユスフ (ディリープ・ラオ)
ロバート・フィッシャー (キリアン・マーフィー)
ピーター・ブラウニング (トム・ベレンジャー)

ログラインは、夢の中に侵入し、ターゲットの潜在意識から”アイデア”を盗む産業スパイの主人公コブは、妻殺害の容疑で母国に帰れず、我が子に会えずにいたところ、実業家のサイトーから、彼の犯歴を抹消し母国に帰れることを条件に、インセプション(アイデアを植えつける)という危険を伴う依頼を受ける。

ストーリーに複雑さを感じる人も多いかもしれませんが、この映画の始まりは、64分以降になるかと思います。
それまでは、この映画のルールというか設定の説明になっています。ここを辛抱強く見ると物語に入れます。
では、ちょっと分析していきます。

Inception

<鑑賞済みの方を対象にネタバレありで語っていきますので、見ていない方はご覧になってからがいいかと思います>

ストーリーについてこれらを抑えておけば楽しめるはず!

1.コブは、産業スパイであるということ。その方法が、夢の中に侵入し、ターゲットの潜在意識からアイデアを盗むこと(抜き取る=エクストラクト)だったが、今回のミッションは、アイデアを植えつける(インセプション)という危険な任務になる。

2.夢には階層がある。ただの夢を<夢1=第1階層>、夢の中の夢を<夢2=第2階層>とあって、現実、夢1、夢2、夢3、虚無、という世界に分かれて64分以降ストーリーが進む。
なぜこういう入り組んだ見せ方なのかというと、時間スピードが違うというだけ。
夢では心の動きが速い。現実の5分が、夢1の1時間。
夢1の1週間が、夢2では6ヶ月、夢3で10年という時の流れに相当すると説明している。だから虚無の世界はかなり早い。
ネタバレになりますが、冒頭のサイトーが老人だったのは、虚無の世界ということです。彼は夢1で死んでから虚無に落っこちてしまいます。そこへコブが助けに落ちてきて、サイトーを現実へ連れて戻すというラストシーンになります。

3.夢の覚め方は、キックか、夢の中で死ぬか、タイマー(時間切れ)
キックの定義がいまいちわかりませんが、とにかく夢の中で起きれば?夢だと気づけば?夢に覚める。全て覚めれば、現実に戻るということなのだと思います。

4.夢か現実の見分け方は、トーテムを使う。
コブの場合は、コマでした。このコマが、インセプションのラストについて物議を醸す。(※下記のインセプションの結末で分析)

5.モルというコブの妻の存在
この方の存在が話をややこしくしている。
コブとモルは過去に、夢の世界を夫婦で楽しんでいた。夢の中で50年も二人だけで暮らしたと語っているので、夢1や夢2ではなく虚無の世界で二人きりになり暮らしていた。(現実には十数時間眠っていたということになると思う)
で、その生活はアリアドネもいうように、耐えられない。コブも、いつまでも夢の世界にはいられないとモルに現実へ戻って子供たちと暮らそうというが、モルは拒否する。彼女は夫と二人きりでいる世界を現実にして離れたくなくなってしまった。
そこで、コブが取った行動が、モルにインセプションすることだった。何をしたかというと、モルの秘密の金庫(潜在意識)にコマを回し続けて、現実へ戻った。すると何が起きたかというと、夢か現実の区別ができなかったモルは現実に戻らなくては、と現実を夢と勘違いし自殺をしてしまった。その原因は、コブがやった”あるアイデア”つまり、インセプションのせいだというわけで、彼は罪悪感をかかえて生きている。
その罪悪感のせいで、みんなと共有する夢の中に、モルという幻影を生み出してしまい、コブの邪魔をする。コブは夢を作る人(設計士)であったこともあり、おそらく幻影として彼女を生み出すということなのだと思う。

6.テーマは普遍的であること。コブは、家族と暮らしたい。これが目的で行動します。
多くのSFは、人類を救うなどのかなり大げさなミッションがあり、アクションがありということにとらわれがちですが、本来のテーマは普遍的であることが多い。
SF×家族の絆、SF×愛する人を守りたいなど、SFというジャンルを使って、よりハードルを上げた状態で、それがどれだけ大切なことなのかと訴える話を作る。インセプションも同じ。コブは妻を殺害していないけれど、彼女の自殺は彼のせいであり、それ故に愛する我が子と離れるという罪を背負った。彼はその罪悪感、トラウマから抜け出せないから、インセプションという危険な任務を遂行しながら克服する話になっている。

インセプションの結末

観た人はやっぱりラストシーンが一番気になると思います。
コマは回り続け、夢なのか、回り終えて現実なのか。

わたしの結論としては、あれが夢だったという解釈をするのはむずかしい気がします。
現実だと考えたほうがしっくりきます。
監督も判断は観客に任せるというので、たぶんポジティブな結末を望んでいると考えられます。

なぜかというと、映画を見るときにわたしたちは主人公と一緒に旅を出ます。
彼は、モルの幻影と決別し、アメリカへ戻り、我が子たちと暮らすというのを目的に果敢に挑んできました。
その彼が、夢か現実かをはかる『トーテム』というコマが回り終えるまでもなく、子どもたちに駆け寄るというのはこの世界(現実)を選んだ。つまり、この世界を信じたいという思いなわけです。夢か現実か、が重要なのではなくて、この世界に生きるために自分はいるんだという結末にたどり着くのがこの映画の目的です。

サイトーにインセプションを依頼されたときに、コブはこんなことを言います。
「その仕事が成功したら家に帰れるという保証がほしい」
だがサイトーは「無理だ」という。
「だが帰す。信じて飛び込しかない。それとも老いぼれて後悔したまま孤独に死を待つかだ」
と、言われるとコブは深くうなずき、受け入れた。

彼は、後悔を抱えたまま年を取りたくない。克服する旅に出るのだと決めた。
つまりゴールは、克服であり、新たな始まりなんですね。その世界が夢であろうと現実であろうと構わない。
言いたいのは、何もせずにいること、それこそが虚無という世界に甘んじている。それは生きていないのと変わらない。現実でありながら、それって本当に現実なの?と問うている気がする。

これはこの映画のもう一つのテーマであると思う。
要は、夢=叶えたい夢=どう生きたいかということに対し、何もやらないというのは夢よりもひどい虚無の現実だと言いたい。
なにもなく、ただ孤独に死を待つ現実に身を寄せ、後悔という思いだけをかかえて生きる人が世の中にはたくさんいる。
そうではなく、「信じて飛び込むしかない」=この現実で生きるなら挑戦して、自分の壁を克服せよととらえることもできる。
観客はそれをキャッチし、さあ、我々が今見ている世界は現実かもしれないけれど夢かもしれない。たった80年しか生きられない夢の時間の中にいる。毎日、目的もなく、あれがしたかったなどという後悔だけを抱え、ただ孤独に死を待つのではなく、立ち上がり、挑戦する価値がある世界だと錯覚させる。現実と思い込んでいるこの世界も所詮は、夢物語と似たようなものなのだから、と。そう観客にインセプションする映画だったのではないか。
と、わたしが制作側ならそういう意図を植え付けたくなるような作る側にとっても、見る側にとっても楽しい映画です。楽しめなかった人はかわいそうなくらい。

夢の階層の分析

・64分までの夢の階層について

<現実:新幹線>コブ、アーサー、ナッシュ、サイトー(ターゲット)が夢の中へ
<夢1:紛争地?:ナッシュが夢の主>サイトーを騙すための夢が、彼に気づかれている。サイトーがコブをテストしていた。
<夢2:サイトーの城?:アーサーが夢の主>コブはテストされていることを知らず、サイトーからエクストラクトをする任務を遂行。
コブたちは任務を失敗し、現実へ戻りサイトーからインセプションを依頼される。

・64分後からの夢の階層について

ミッションは、サイトーのライバル企業で、跡継ぎのロバートに会社を潰すというインセプションすること。
計画は、
現実で、跡継ぎのロバートと父の不仲に目をつけた。
第1階層で、ロバートに父との関係を提起する。『跡を継ぐだけでいいのか?』
第2階層で、ロバートが継がない場合、『自分で何を作りたいのか?』とロバートに考えさせる
第3階層で、ロバートは結論を出す。『自分の道を進め』という父の遺言を聞き入れる。父との和解
こういうポジティブなアイデアをロバートの潜在意識に植えつけて、父が築いた会社を潰すようにさせるのが任務になる

<現実:飛行機>コブ、アーサー、サイトー、アリアドネ、イームス、ユスフ、ロバート(ターゲット)が夢の中へ
<夢1:雨のLA:ユスフが夢の主>ロバートを拉致するが、彼は夢を守る訓練を受けていた。そこでサイトーは瀕死の重傷を負い、計画が狂う
<夢2:ホテル:アーサーが夢の主>ロバートに、夢だと教え、父の側近のピーター(偽装師のイームスが彼に代わって)に疑心暗鬼をさせる。不安な彼の心に付け入る。
<夢3:雪の要塞:イームスが夢の主>ロバートは、父の遺言の意味をポジティブに受け止める。
<虚無>コブとアリアドネがロバートを助けるために落ちる。そこにはモルがいて、ロバートがいる。アリアドネはロバートを救い、夢3へ戻る。コブは、虚無にいるモルと一緒にいるのをやめて、サイトーを助けて、子供たちがいる現実へ戻ることを目指す

インセプション 夢 階層
ノーラン監督手書きの夢の階層と物語の進行表。

こういうアイデアを考えている時間はとても楽しいと思うし、このアイデアを実現させようとするハリウッドに、邦画はとても勝てないと打ちのめされる映画でした。