コメディー

JUNO/ジュノ ネタバレあり感想&映画脚本分析

juno ジュノ

JUNO/ジュノ ネタバレあり感想&映画脚本分析

作品紹介

JUNO/ジュノ
上映時間 92分

監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ディアブロ・コーディ

ジュノ (エレン・ペイジ)
ブリーカー (マイケル・セラ)
ヴァネッサ (ジェニファー・ガーナー)
マーク (ジェイソン・ベイトマン)
リア (オリヴィア・サールビー)
マック (J・K・シモンズ)
ブレンダ (アリソン・ジャネイ)

ログラインは、予期せぬ妊娠をした16歳の女子高生ジュノが、堕胎を中止して出産を決意、そして養子に出すことを決めるのだが、土壇場で養父母によるトラブルが起き、それを乗り越えて出産に至るヒューマンコメディー。

舞台は、アメリカ中西部の田舎町。退屈な女子校生ジュノが、興味本位で同級生のブリーカーとエッチをしたらできちゃって、さあどうしましょ、という話です。
当然、10代の妊娠は深刻なものであり、日本でこういう題材を取り上げると、やたらと暗く、深刻で重大なテーマとして扱いがちですが、この映画はコメディータッチでありながらそのテーマをしっかりと描いていて、やたら現実味のある仕上がりになっています。
セリフのうまさ、脚本力の高さが際立つこの作品を分析していきたいと思います。

juno ジュノ

<鑑賞済みの方を対象にネタバレありで語っていきますので、見ていない方はご覧になってからがいいかと思います>

セリフと行動は裏腹

この映画は、言葉のチョイスが各キャラクターに乗じて的確で素晴らしい。
セリフをうまく使い分けて、キャラを動かしている。だが、そのセリフと行動が裏腹になっているとわかると、ため息が出るほど感心してしまう。

冒頭、ポリタンクのオレンジジュースを飲み続けるジュノが薬局へ行き、妊娠検査薬を買おうとするのだが、薬局屋のオヤジが「それで3つめだぞ。卵子は受精しちまったな」と咎める。ジュノは一見深刻さを見せていないが、すでに2つ試しているという行動で深刻さを表していることがわかる。極めつけは、妊娠したことを示す+が表示されると、妊娠検査薬を体温計のように振る。振って、なしにしてやろうとするあたりが、現実逃避したい彼女の心情を物語り、面白い。
そして自分の部屋へ戻ると、そこはまさに子供部屋。ハンバーガーの形をした電話機で、親友のリアに妊娠したことを告げる。また、リアというキャラクターがいい。天然娘で、目についたことや思いついたことをすぐに口にしてしまう。ジュノの妊娠を知り、「マジ、ヤバイじゃん、どこで処置すんの?」と、若者に出産という選択肢はない。

凡人の脚本家なら、おそらく出産か堕胎かで主人公が一人悩み、苦しみ、その相手にどう伝え、厳しい決断をするのかと見せたがるが、天才脚本家のディアブロ・コーディはそんなのはしない。堕胎で進行させ、さて妊娠をどうお腹の父親にいおうかとそちらに気を配っている。
それがまた斬新なアイデアだ。
ブリーカーとエッチしたソファを家の前に運び、彼が朝練のランニングに出てくるのをパイプをくわえて待っている。彼がやって来ると、
「わかる?」
「なにが?」
「妊娠したの」
絶句するブリーカー。予想はしていたけど、彼の明らかな動揺にちょっと悲しい表情を見せるジュノ。
「僕たちどうすればいいの?」という頼りないブリーカーに、
「考えたんだけど、摘み取ろうかなって」とジュノらしくいうと、
彼は、すぐに納得し、「そうだね」という。
それでもジュノはわずかな望みをかけて、「それでいいわけ?」と聞く。
「もちろんだよ。君がしたいようにすればいいさ」と、ジュノに責任を押しつける。
ジュノとしては、本当は一緒に考えてほしい。でも、子供みたいにギャーギャー騒ぐのはジュノらしくない。だからパイプをくわえ、大人ぶった芝居をして、聞き分けのいいふりをする。でも内心はブリーカーの言葉に心底がっかりして、怒っている。だから怒りがつい口に出て、本音とは裏腹のことをいう。
「セックスしてごめんね。あなたの考えじゃないのにね」と一人で学校へ行ってしまった。
ここでジュノは、彼が好きだからエッチしたのだとわかる。好きだから、怒るし、がっかりした。なにより、彼の気持ちを知るのが怖くて、自分をごまかして、彼の気持ちを推し量ろうとしたというのもわかった。切ないティーンのやりとりが見て取れる。
「君がしたいようにすればいいさ」という発言は、ジュノがしたいからしただけで、彼はなんの気持ちがないふうに、ジュノは受け止めてしまった。
男側からしたら、彼女のことは好きだけど、本当にどうすればいいんだろうという気持ちがつい言葉にでてしまっただけだが、女性は受け止め方が違う。それゆえに互いの気持ちはすれ違ってしまった。言葉というのはいかにももろい。

男は、なんでも点で考える。彼女を好きという点。セックスするという点。彼女が妊娠したという点。
一方、女は線で考える。好き、セックス、妊娠という一直線。
女は、私のことが好きかどうかが問題。男は、彼女が妊娠をしたという点が問題で、この場面では好き嫌いは最重要ではない。それゆえにすれ違いが起きた。
それがうまく描けていて面白い。
案の定、ジュノは彼はわたしのことが好きじゃないんだと思い、堕胎をやめ、出産を決意し、養父母決定まで、ブリーカーなしで決める。
しかし、この好き嫌い問題が、ラストにつながってくるあたりが、非常にうまい。そりゃ、アカデミー脚本賞を初脚本でとっちゃうよね、天才だねといわれる所以だと思う。
結論からいうと、この映画は、妊娠、出産を通して、10代の女の子が愛というものがなにかを知る話です。だから若い子には是非観てほしい作品。

小道具でキャラクターの状況をだす

この映画は小道具でキャラクターの状況をだすのがうまいなと感じました。
ジュノが使うハンバーガーの電話機。まさに子供ですよね。そんな子が、妊娠したのと電話をしてるのが妙だと表す。
そしてブリーカーのベッドは、車型。まだ小学生みたいだというのを暗に説明しています。
またブリーカーのジュノに対する気持ちをどう表現するかという場面で、初エッチの時にジュノが脱ぎ捨てたパンツをとっておき、それを握りしめて、学校のアルバムで彼女を眺めているあたりが、この男の不器用さをうまく出している。ティーンのときは、好きな人のモノを持っていたいという欲求に駆られるものです。それも身につけているモノほど欲しいというのは理解できる。好きな子のパンツを欲しがり、それを手にしているというのは相当彼はジュノに惚れているといえます。

養父母の家で、養父になるマークは趣味の部屋をもっている。そこでギターを見つけるジュノ。ギターはどんな伏線になるのかと期待してみていたら、ラストに、ジュノとブリーカーのセッションにつながり、なるほどと理解できます。
養父母のマークとヴァネッサは、子どもを持つということに関して温度差があります。そのギクシャクした感じが観客を不安にさせ、波乱を予感させる。
マークは、ジュノという若さに出会い、好きなロックやアニメを存分に語るうち、捨てたはずのロックスターの夢に目覚めてしまう。
子どもを持つという責任よりも、彼はまだ子供のように自由に生きたいと退行し、ジュノに恋までする。子供でいたいという表れは、終盤ファッションに関わってくる。ファッションも小道具です。学生が着るようなTシャツ姿(ジュノも同じ格好)の彼を見て、ヴァネッサは「バカみたい」という。「大人になってスターになるのを待ってたら母親になれない」
こうして2人は離婚へ突き進む。
それをジュノは見ている。彼女は悲しくなり、泣きます。そして次のシーンで、何が起こるか。
ブリーカーがギターを弾いてる。
これは52分のところで、養子の手続きについてジュノがようやくブリーカーに伝える場面から起因します。
「すべてが済んだらまたバンドをやろう」とブリーカーはジュノに平然と話す。あまりにも子供でびっくりします。妊娠してるそのお腹には、彼の子供がいるのにまったく気に留めていない。ジュノもそれはいいわと話を合わせたことで、彼はそのために熱心に練習を始める。無邪気というか、バカというか、男ってのは・・と思わせる。
ギター(バンド)=子供という比喩を、女性脚本家目線で訴えているのでしょう。

そしてラストに、ジュノとブリーカーはギターセッションする。ようやく2人の気持ちがつながったいい場面です。
ですが、ジュノはわかっている。これは子供だからできる恋愛だということを。
子供には子供の恋愛があり、大人には大人の恋愛がある。
今は子供だから、好きな人とギターを弾く。それでいい。
けれど、大人になったらそういう男を好きになってはダメ。
彼女が泣いたのは、ジュノとブリーカーの将来は、マークとヴァネッサを想像させたからだったのではないでしょうか。
女は線で、男との関係を考える。
ジュノは、ブリーカーとマークが直結してしまった。
つまり、自分たちの関係も永遠の愛ではない、と線が引かれた。
もし、ブリーカーとの将来を悲観しないのであれば、彼女は離婚するヴァネッサに赤ちゃんをあげないはずです。彼女の本音はできることなら、大好きなブリーカーと子供を一緒に育てるのが理想なはず。でもそれはしなかった。ブリーカーと育てるのは将来もふくめて無理だろうと、マークを通じて彼女は気づいてしまったから。
もちろん完璧な養父母が壊れてしまったショックもあります。愛は、永遠ではなく壊れてしまうものだと目の当たりにした。16才の夢見る少女には衝撃で涙が出たともいえます。
どちらにしろ、ジュノは愛というのがどういうものかを知った。知ったからこそ、もう望まない妊娠を彼女はしないだろう。愛する人の選び方はうまくなるだろう。こうして大人へと着実に進んでいくという、愛を知った少女の話に仕上がっています。
それを90分でまとめるあたりが、この作品のスゴさです。